今からおよそ100年前、ヨーロッパ大陸で第一次世界大戦が繰り広げられる中、
フランス北部フランドル地方の西部戦線では、英仏軍対独軍が、互いの塹壕から至近距離で対峙する最前線となっていた。
塹壕=トレンチ(trench)とは、地面にくり抜いた穴や溝のことで、兵士たちはそこに身を潜め、敵の攻撃から身を守りつつ、時に這い出て敵方を攻撃する。
余談だがトレンチコートの由来も、ここで兵士が来ていた機能的なコートから来ている。
両陣の塹壕は、兵士たちの声がお互い聞こえるくらい近い距離にあったという。
1914年、クリスマスイブの夜、塹壕の中にいた英軍の兵士たちは、独陣から「きよしこの夜」の歌声がするのを聞く。
ゆっくり頭を上げてみると、飾られたクリスマスツリーが輝くのが見えた。
英兵たちも、独兵の歌声に合わせ歌う。
”Silent night, Holy night”
翌朝、英兵が塹壕から身を乗り出すと、目前の独陣には独兵が立っていた。
撃たれる!
慌てて身を潜める。
が、しかし彼らは撃ってこない。
彼らはこちらに向かって手を振っていた。
不審に思いつつ、英兵も手を振り返す。
そして、両兵たちは、互いに塹壕から出て行き、最前線の中間点で対面した。
Merry Christmas!
Merry Christmas!
両兵たちは互いに握手し、クリスマスを祝った。
祝杯をあげ、タバコを嗜み、それぞれが持っていたものをプレゼントとして交換する者たちさえいた。
Christmas truce =クリスマス休戦
1914年に第一次世界大戦が始まって初めてのクリスマスで起きたこの奇跡は、歴史上の事実として後世に語り継がれることとなる。
しかし、非公式に行われたこの停戦を快く思わない上層部たちは、こうした行動を厳しく禁じ、以後クリスマス休戦が起こることは二度となかった。
それどころか、皮肉にも戦闘攻撃が激しさを増し、各国ともボロボロになるまで戦いが長引き、1000万人を超える死者を出すことになった。
祖国の任命を受けながら、それでもクリスマスを祝う兵士たち。
目の前に自分を殺す敵がいるとわかっていながら、それでもクリスマスを祝う兵士たち。
宗教を持たない自分には、信教の精神はなかなか理解できないものがあるけれど、
きっと彼らにとっては、いかなる状況下においても心の拠り所となるものなのかもしれない。
互いに殺し合っていても、一つの心の拠り所のもとに手と手を取り合えることを、この歴史的奇跡が証明してくれる。
理想主義かもしれないけれど、脳内お花畑と言われるかもしれないけれど、
でも本当は、誰も殺し合いなんかしたくないはずだ。
100年経った今、私たちは歴史から何を学んだのだろう。
聖なる夜に、ただ願う。
Merry Christmas to all of you.