ふと、とある建物の外観に目が止まり、思わずカメラを向けてしまいました。
個人的に、外観に金物系を使うのは、あんまり好きじゃない。
が、このパンチングのランダムなドットが、妙にしっくりして、なんともいい雰囲気を醸し出していたので、ついマジマジと見入ってしまったんだわ。
パンチングメタルというのは、金属のプレート、ステンレスとかアルミとかの薄い板に、ボコボコ穴を開けたもの。様々な用途に使われる。
↓こういうの。
建築の場合は、通気性を保ちつつ視界を遮るところとか、ちょっとした仕切りとか、特に限定もされず、いろんな場所で使われています。
んでね、パンチングメタルを見るたびに、今でも鮮明に思い出すことがあってね、かれこれ、もう10年以上も昔になるなあ~、あの頃はワタクシも若かった・・・あ、ま、それはいいか。
とある現場で、ちょっと厄介な近隣のおばちゃんたちがおりましてね、やれ、こちら側に向けて窓つけるなだの、給気用ベントキャップ指して、あそこから排気が出てくる、やめてくれ!だの、(いえ、給気ですから排気は出ませんって言ったら納得してくれましたけど)まあ、逐一文句をつけてくる。
んで、工事も終盤に差し迫ったころ、今度は「そっちのバルコニーからこちらが丸見えになるじゃないか、目隠しを付けろ!」と。
ヤレヤレ、また追加工事かよ、と思いつつ、あれこれ画策して、パンチングメタルのサンプルを持って交渉に行ったサ。
「形状はこういう金属製のもので、穴の大きさは、ここに印刷されている径になります。穴のないメクラ板だとかなり圧迫感ありますし、小さい穴ですから、遠目だと人の顔などはほとんど見えないです。これでどうでしょう?」
小さめのドットと、開口率の低いものを選んだおかげで、すんなり納得してくれた。
後日、目隠しパネルの取り付けを終え、イソイソと現場から退散するやいなや、即刻事務所にクレームの電話が入る。「約束が違うじゃないのっ!こっちから職人さんの顔丸見えよ!穴の大きさが違う!」
ん?サンプルと違ったか?不審に思い、再び現場へ。
・・・同じだし・・。それにこっちから向こう側は、ほとんどなんも見えへんで。何言うてんねん、おばはんらは。またいちゃもんかよ。。
内心ウンザリしつつ、あのー、、と隣のドアをノックする。
「サンプルでお見せしたものと同じですし、ほとんど見えないですけど・・」
そんなはずはない、今朝ほどバルコニーで作業していた職人の顔がくっきり見えたんだと、のたまう。
ならば、実際こちら側から見てください、とおばはんらをバルコニーに連れていく。
「あれー!不思議、ほんとね、顔の輪郭すら分からない、向こうとこっちで見え方が違うのね。あーこれなら安心だわ。」と、えらくご機嫌の様子。
「だってねー、誰が住むか分からないでしょう?気持ち悪いじゃない?あなたが住んでくれるなら安心だけど。」って、、あーた、、散々文句ぶちまけといて、、、ま、いっか。
なんかえらくご機嫌になったのか、新築の部屋の中をウロウロ見て回り、まあー素敵ね~、いいわね~なんぞ言い残して帰って行ったとサ。
向こうとこちらとで、そこまで見え方が違うものなのか、実際あちらのお宅からは見てないので分からないけれど、そういうこともあるんだな、とワタクシ自身も意外だった。
おばはんたち、色々文句は言うけれど、真に悪い人たちではなかったし、常識外れたこと言う人たちでもなかったので、彼女たちが大げさに言ってるとか嘘を言っているとも思えない。
見る角度や距離にもよるだろうし、もしかするとパンチングの穴のエッジ処理が表と裏とで微妙に違っていたのかもしれない。
もう、随分昔のことなのに、時々脳裏に蘇る。
そして、ふと、思うのでアリマス。
今見えている目の前の景色は、違う方向から見ると、全く別のものに見えるかもしれない。
人間の視点とは、それほどにも頼りないものナリ。