各方面から、イロイロ物議を醸している新国立競技場ですが、先般、事業主体の日本スポーツ振興センターが、コンペ選考過程を記した報告書を公開した。
(今頃公開すんですか?という気もしないではないですが)
周知のとおり、最優秀賞に選ばれたのは、イギリスの設計事務所ザハ・ハディト・アーキテクツ。
審査委員長の安藤さん(建築家の安藤忠雄氏デス)、「満場一致で」と強調されていたけれども、最終審査過程は、相当難航が見られたモヨウであります。
二次審査に残った11点のうち、各審査委員によって高評価を得られた3点が入賞作品に決定。
コックス・アーキテクチャー、ザハ・ハディト・アーキテクツ、SANAA+日建設計。
コックス・アーキテクチャー案
SANAA+日建設計案
この3案が入賞した時点では、どれも評価に大差はなく、技術的な課題や敷地の使い方、景観問題など、いずれも提案者との相当の議論が必要とされた。
この入賞3点のうちから、最終的に1点を絞ってザハ案に決定したわけですけれども、敢えて断っておくが、私は、ザハ案を否定しているわけでも肯定しているわけでもない。他の提案も然り。
これらは、それぞれの提案者が、新国立競技場という建築に、自らのメッセージや信念、希望のようなものを託し、創意工夫を集結したものであって、審査員でもなんでもない者が、白黒言えるようなもんじゃあ、ありませぬ。
審査委員会でも、最後までこれら3点の評価は分かれたようでありますが、最後の決め手として「世界に発信する力」に焦点を当てて議論された。
委員長の安藤さん曰く、ザハ案決定に際し、相当な技術力が必要としながらも、「これが日本で実現すれば世界へのインパクトがある」「日本の優秀さを世界にアピールできる」「世界中の人たちから注目を集める」と語っている。
「世界に発信する力」。
日本が「世界に発信する力」とは。
昭和の成長期を経て、成熟期に入った日本が今、世界に発信すべきものは何だろう。
高度かつ高品質な技術力とマネージメント力によって、壮大なスケールと卓越したデザインの建築物を生み出し、
「どや!こんな凄いもん作れるんやで。日本を見直したか。わははは」
って言うことが、世界に向けたメッセージなのだろうか。
1964年の東京オリンピックなら、これでよかったと思う。
敗戦からの復興を遂げ、成長一直線の昭和の時代なら。
確かに、すばらしい建築を生み出してきた日本の技術は、世界的に賞賛されるものであるかもしれない。
しかし、いまや世界を見渡せば、それらに匹敵するような建築はいくらでもあるし、もっとスゴイものだってあるわけで(何がスゴイことなのかって議論はありますが)、敢えて今、日本が発信するべきメッセージなのだろうか?と思うわけであります。
成熟期に突入し、すでに衰退を始めている日本が世界に向けたメッセージ。
高い技術力は、もはや当たり前の時代で、これからの未来、次世代へ繋がる持続的社会を、どう構築していくのか、成熟した社会で人々は何に幸福を見いだすのか。
技術力だけをアピールする時代は、もう終わったのではないでしょうか。