今更ながら・・といった感はあるが。。
でも未だに、根っこのトコでは事件の真相はどうだったのだろう?
と、次第に闇に葬られていった偽装事件を思う。
一応、諸々関係者の逮捕(しかも事件と無関係の起訴で)で幕を閉じたのだが。
今更ながらに思い出されるというのは、時々、こういう質問を投げかけられるからだ。
「東日本大震災で、姉歯さんの建物は倒壊したのですか?」
姉歯さんとは、周知のとおり、構造計算を偽装した張本人である。
偽装が行われ、耐震強度が不足していると判明した建物は、主に首都圏に集中しているが、おおかた東日本大震災までに、何らかの補強工事が行われていた。
だが、未だに全く何の対処もされていない建物も実在する。(国交省調べ)
が、補強工事をした建物もしていない建物も、東日本大震災によって倒壊したという事実は公表されていない。
ただ、しっかり調査をしているわけではないので、倒壊までに至らなくとも、何らかの損傷があったかどうか、詳細は分からない。
国や自治体が調査を行うわけでもなく、マスコミもそういった事実を取材報道しようとはしない。あえてしないのか、その真意は分からないが。
仮に、倒壊もしくは損傷を受けた建物があったならば、その他の偽装マンションに住む居住者に、風評被害が及ぶ恐れもある。
逆に、全てが無傷であったならば、現行の建築基準法は何なのか、といった非難の矢が国に向けられる恐れもある。
いずれにせよ、そういう波紋を危惧してか、不思議と偽装マンションについての情報は一切見かけない。
既に過去となってしまったのか。
倒壊した建物はない。
たぶんこれは事実だろう。損傷はあったかもしれないが。
じゃ、補強工事なんて必要なかったんじゃないか、という見方もできる。
しかし、それは結果論でしかない。
正しいとも、間違っていたとも言えない。
当初、国交省が「震度5強で倒壊の恐れがある」として多くのマンションやホテルなどに建替えや補強工事を通達した。
何の根拠をもって倒壊??
と、これはやや乱暴な判断だと、当時構造エンジニア専門家の間で議論が持ち上がった。
補強で十分使えるものまで壊して建て直す必要があるのか、と。住民が全員退去してまで。
現行の構造計算の考え方には、限界耐力計算というものがある。
構造の専門家でないので、詳しいことはご勘弁願いたいが、崩壊メカニズム時における許容応力を求める手法。要は、建物がぐしゃっと崩れるまで持ちこたえられる必要な力を求めるもの。
実は、この手法で偽装マンションの強度を判定すると、全て安全なレベルであった、という事実もある。国交省が下した判断は、保有水平耐力の不足という一辺の見方だけで判定を行ったがために、大半がNGとなった。間違いではないが、現実的ではない。
ここで、「少々鉄筋が不足していても大丈夫なんでっせ!」ということを、喜々として申し上げたいのではない。
ただ、極端に神経質になる必要はないが、さりとて世界中で最も地震の多い我が国の建築基準が、あながちオーバースペックだと言い切れるものでもない。
地震は自然現象故に、机上の計算やプログラムで算出された数値に正直ではない。
医者が、全ての癌患者を完治させることができないのと同じように、完璧な設計もまた存在しない。
どれだけ高度なプログラムが発達しようとも、プログラムを動かすのは、生身の人間であり、実際に現場で作るのもまた、感情をもった人間である。