たぶん。
きっと誰しも、自分の慣れ親しんだものには、愛着を感じるものだと思う。
毎日使うマグカップだったり、毎日乗る電車だったり、毎日通る道、景色、ありとあらゆる身の回りのもの。
自慢じゃないが、ワタクシ昔からモノ持ちがいい方でして、というか単に貧乏性ってだけかもしれないが、20年前の服なんぞ、ざらに引き出しにあるぞ。(いい加減捨てろ)
それはそうと。
職業柄、というほど大袈裟なものでもないけど、やっぱり、慣れ親しんだ建物や風景に再び出会うと、なんかこう、じーんとくるものがあるんですわ。
感動とも違う、なんかこう、あったかいもの。
久しぶりに訪れると、あー、変わらずに待っていてくれたのかという。
数日前、たまたまひょんなことで、我が青春時代を過ごした高校に立ち寄った。(ワタクシにもそんな時代があったのだ)
懐かしい正門を潜り、構内へ入る。
田舎の公立学校だからね、部外者が勝手に入っても、だーれも何とも言わん。
もちろん、警備員のオッサンなんかもおらん。ま、これが田舎のいいところ。
平日だから、多分授業の真っ最中だったと思う。
で、入ってすぐに異変に気づく。
!!
ない!!
当時の学び舎が、跡形もなく消え去っている。
当時、なんでこんな形状に作ったのか、まったく不可解で、皆が首を傾げた、北側傾斜(北から南に向かってセットバックしている)の、奇怪な形の校舎。
北側傾斜ゆえに、日射が入らず、冬は無茶苦茶寒い。
今のように、冷暖房完備なんてのとは無縁な昔の公立学校でしたから、ガタガタ震えながら授業を受けておりましたよ。
その校舎が、きれいさっぱり姿を消し、代わりに新しい校舎が少し離れたところに出現しておった。
呆然と立ち尽くしてしまったが、まあ、考えてみれば、30年近い月日が流れているわけだから、驚くことでもないのかもしれませんな。Time goes by…
不思議だったのは、実物は消え去っていたんだけれど、そこに立っているとね、タイムマシンで時空を超えたかのような錯覚になって、当時の情景が脳裏に浮かんできた。
廊下の手すりにもたれかかって、友達とくっちゃべる自分。寒い教室と長い黒板(普通のサイズの2倍の長さはあったと思う)
一つの建物が解体されるとき、自分はいつも、その建物と一緒に、思い出や歴史も葬られ、記憶から消えていくと思っていた。
だから、解体現場を見るのは、どんな建物であれ、正直あまり好きではない。
けど、そうじゃない。
どんなに年月が経とうとも、心に溶け込んだ景色は、目に見えない時空の中で、今でも自分を迎えてくれる。
今はもういない、時間が止まったままの彼らの笑顔とともに。