まだ、肌寒い春だった。
高速深夜バスで、故郷から東京に向かう。
夜が明け、白々と外が明るくなり始める頃、バスは首都高を走る。
車内の乗客まだ、皆眠っている。
そっと、窓のカーテンを開けてみた。
その年の桜は遅かった。
窓から東京の街並みが広がる中に、ポツリポツリと
淡桃色の桜が見えた。
とうとう、来た。
まだ若かった当時は、不安よりも期待の方が大きかった。
何の根拠もないけれど、ただ、きっとすばらしい人生が待ち構えていると。。
あれから17年。
この日が来ると、いつも思う。
そして、初めて東京に来た日に、車窓から見えた桜が蘇る。
いつかはこの街とも別れる日がくるのだろうか。
私は東京が好きだ。
人ごみは嫌い。
車の渋滞も嫌い。
満員電車も大嫌い。
それでも私は東京が好きだ。
誰もが無関心で、素っ気なく、孤独で寂しい。
それでも、よそ者をそっと受け入れてくれる、そんな東京が好きだ。