三陸高台に生まれるのは理想郷か暗黒郷か

 

辺りが寝静まる夜、一台のコンパクトカーを調達し、北へ向かった。

暗い夜道、ただひたすら、車を走らせる。

まだ、残暑の暑さが残る8月下旬、夜の空気はひんやりと心地よかった。

 

白々と空が明るくなる頃、所々に点灯していない信号が目に付く。

市街から、海岸の方へ向かう。

意外にも松島は、健在だった。

5ヶ月前にテレビの映像に映し出されたような惨状の痕跡はない。

 

そのまま、さらに北へ向かう。

次第に、風景が変わり始める。

ゴミ山?いや違う、がれきの山だ。

アニメ映画に出てくる巨大怪獣が、街をもみくちゃにしたかのような風景が、延々と続く。

ここは戦場だったのかと、思わず錯覚してしまう。

いや、確かに、そのときの彼らにとっては戦場だったはずだ。

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4年前の夏、震災後の東北を訪れた時の衝撃は、今もはっきり脳裏に焼き付いている。

すでに、5ヶ月を経過していたけれど、震災の傷跡がまだ至る所にむき出しのままだった。

ある所は、とりあえずがれきだけは山積みにし、辺り一面一掃して文字通り消滅した街もあった。

一瞬にして、街が消える。

フィクション映画か何かでしか考えられなかった光景が、現実にそこにあった。

 

今、この三陸地方は、地盤のかさ上げ作業が進む。

がれきの山に代わってそこにあるのは、土の山。そして土を運ぶベルトコンベアが一面に整備され、これまた、フィクション映画を思わせる光景が広がる。

古来より、幾度と津波の被害を受けてきた地域に、高い防潮堤が建ち、地盤を高くかさ上げされた人工未来都市が、生まれつつある。

それでも、この膨大な復興事業は早くてあと4年はかかるらしい。

やむなくして、生活基盤を移さなければならなくなった住民たちは、そのとき、ここに戻ってくるのだろうか。

この地域の多くの住民が、漁業を生業としてきたというが、10mを超える高い場所に居を構え、毎日上り下りを繰り返して生活を営むのだろうか。

 

地盤強度は当然考慮されているとは思うけれど、やはり盛り土という点においては正直、懸念が残る。

盛り土そのものは固くても、地盤の揺れにおいて元の斜面地との滑りが起きることは、今までの事例でも多く見かける。

仮に、滑っても防潮堤がせき止めてくれる?

いや、その前に間違いなく家は倒壊する。

マンションで、杭基礎ならどうだ?

盛り土分の余計な杭長で、コストアップは間違いない。

 

猛スピードで進む復興事業に、アレコレ考えていても始まらない。

青図で描く理想郷と現実にそこで営まれる日常生活とのギャップがいかほどか、そのときになってみなければ分からない。

 

ただ、こうした理想郷での生活が、災害に対する人間の本能を奪うものとならないことを願う。

古来より災害を経験してきた地域に住む人々には、代々受け継がれる言い伝えや、いざというときの身を守る行動が、自ずと身に付いているという。

いつも危険と隣り合わせで生きる人間の本能みたいなものかもしれないが、これが安全と引き換えにされたなら、こんな不幸な復興はない。